「それっ!」
「えいっ!」
「・・・負けないわよ!」
今日は3/14、ホワイトデー。バレンタインにチョコを貰った男性が、女性へお返しをする日だ。
その夕暮れ時、和真は椿と沢木に「お返し」をした後、空き教室で紙ヒコーキを飛ばしあっていた。
昔の思い出を知らない椿に、思い出を共有してもらいたいという和真と沢木の願いからだった。
「はぁ、はぁ・・・け、結構ハマるわね、これ・・・」
「椿もなかなかやるじゃねえか・・・さすが「もう一人の沢木」だな」
「もう・・・2人ともそれぐらいにしよ?あんまり散らかすと先生に怒られるよ??」
沢木はムキになって争う2人を微笑みながら見守る。ここ最近、いつもの光景だ。
けれども沢木は、決まってそんな時考えてしまう事がある。
(去年、2人が結ばれてからも、私はずっと2人のそばにいる)
(けどそれって、2人にとっては本当に良い事なのかな・・・)
3人で過ごす時間は、とても楽しい。この幸せがずっと続けば良いのにと思う。
だが、沢木はそう思う一方で、2人に対する引け目も感じていた。
やっぱり私は2人の邪魔をしているんじゃないか・・・と。
(2人が私との時間を大切にしてくれるのは・・・とても嬉しいけれど)
(でもやっぱり、高坂くんとさわちゃん(=椿)が恋人同士なんだし、あんまり私が邪魔しちゃいけないよね・・・)
もちろん、2人は沢木の事を邪魔だなんて全く考えてはいないだろう。
でもだからこそ、私の方が気を遣うべきなんじゃないか・・・沢木はそう考えてしまうのだ。
沢木がそんな思いを巡らせている内、2人の勝負は決着がついたようだ。
「やったわね!私の勝ちよ、コーサカ!!」
「ぐっ・・・やっぱり今でも「沢木」には敵わないのか・・・」
「ふふっ、2人とも気が済んだ?もうそろそろ門限だよ??」
太陽は西の水平線に落ちかけ、あたりも暗くなってきている。そろそろ、夜のとばりが下りてきそうだ。
「そっか、もう5時半なんだな。門限も近いし、そろそろ帰るか」
「うん、そうだね。今日は楽しかった。さわちゃんも楽しめた?」
「もちろんよ。紙ヒコーキ飛ばしがこんなにハマるものだとはね」
「おいおい・・・俺と沢木の思い出話、すっかり忘れてるだろ・・・」
そんな会話を交わしながら帰る準備をして教室を出ようという時、椿と和真は顔を見合わせる。
そして、沢木に気づかれないようにそっと頷きあった。
「・・・ねえ、先に校庭で待っていてくれる?私達、ちょっと用事があるの」
「さわちゃん、それなら私も手伝うよ??」
「いや、2人きりじゃないと駄目な用事なんだよ」
(えっ??「2人きりじゃないと駄目」って・・・もしかして)
夕暮れの校舎、2人きりの用事、彼氏彼女の関係。
あちら方面には奥手な沢木でも、「あっち」の想像力を掻き立てられてしまうシチュエーションだ。
(それなら私も・・・って、そうじゃなくて!)
そんな沢木に追い討ちをかけるように、椿は顔をちょっと赤らめて、
「そんなに長くはかからないから。少しだけ・・・だから」
「・・・分かったわ。2人とも、なるべく早く来てね?」
「悪いな、沢木」
(やっぱりそうなんだ・・・今日はホワイトデーだし、記念に夕暮れの校舎で・・・も悪くないよね)
(やっぱり私も混ぜて欲しかったかな・・・3人でするのは初めてじゃないんだし)
(やっぱり私、2人にとって邪魔な存在なのかな・・・)
様々な思いが浮かんでは消え、浮かんでは消え・・・を繰り返しながら、沢木は校庭へ出た。
3月とはいえ、日が落ちる頃になると風は冷たくまだまだ寒い。
今は門限近く、校庭では部活動も終了しており、帰る人もまばらだ。
(もう、2人とも遅いよ・・・何してるのかなあ)
(2人はお熱いかも知れないけど、私は寒いんだからね・・・)
そう思いながら、沢木はただ待つ。実際は5分も待ってはいなかったが、沢木にとってそれは何十分、いや何時間にも感じられた。
そうして何分待っただろうか。突然、空き教室の窓から2人が顔を出した。
(あれ?2人ともどうしたのかな・・・)
沢木にとって、それは予想外の光景だった。
沢木の想像では、2人は・・・している訳だから、教室から顔を出すなんて全く考えていなかったからだ。
よくよく見ると、和真は手に何か持っている。遠目に見た感じだが、あれは紙ヒコーキのようだ。
「沢木・・・いくぞ!」
「えっ・・・こ、高坂くん!?」
「いいから受け取ってくれ!!何が何でも!!!」
「頼んだわよ!」
椿がそう言うや否や、和真は持っていた紙ヒコーキを沢木に向かって投げた!
「ちょ・・・っ、2人とも一体何なの??」
沢木は訳がわからないままに紙ヒコーキを追う。
今日は風があまり強くないからなのか、それとも和真の腕が確かなのか。
紙ヒコーキは沢木が今いる位置とあまり変わらない場所に着地しそうだ。
いやそれでも、校舎から投げられた紙ヒコーキを直接受け取るなんて、至難の業である事に変わりはない。
生真面目な沢木は紙ヒコーキの動きに翻弄されながら、訳も分からず必死に追う。
やがて地面に舞い降りた紙ヒコーキを、沢木は無事受け取る事ができた。
直接掴むことはできず、一旦地面に落ちてしまったが、それはまあ仕方がないだろう。
やっとの思いで受け取った紙ヒコーキをふと見ると、折られた中に何か書かれている。
元々プリントされた文字かと思ったが、どうやら違うようだ。
(高坂くんと、さわちゃんの字・・・?)
沢木が折り畳まれた紙ヒコーキを開けると、そこに書かれていたのは・・・
−「いつまでも、一緒に」−
「もう、2人とも・・・バカなんだから・・・」
沢木は開いた紙ヒコーキを折り畳んで、そっと両手で持ち胸に当てた。そしてそのまま目を閉じる。
(こうしていると、2人が私の事をどう思ってくれているのか、伝わってくるよ・・・)
2人の想いが、沢木を優しく包み込む・・・いつしか沢木の目には、嬉し涙・感謝の涙が浮かんでいた。
「うまく受け取れたみたいね」
声に気づいて目を開けると、いつの間にか高坂と椿が下りてきていた。
「あの、ふた・・・」
何かを言おうとする沢木の唇に、椿はそっと指を当てる。
「何も言わなくていいの。私達・・・ずっと一緒でしょ?」
「そうだぞ沢木?おまえ、なんか俺達に遠慮してるみたいだったからさ」
「沢木と椿は「一心同体」なんだから、椿が俺といる時は沢木も当然一緒だ」
「「椿のものは沢木のもの、沢木のものは沢木のもの」ってな」
「うっわ寒っ・・・ジャ○アンじゃないんだから」
「う、うるさいな・・・俺はただ、2人はいつも一緒だという事をだなあ」
「そんな事、あんたにオヤジギャグ飛ばされなくても分かってるって。ねえ?」
「くすっ・・・そうだね」
(そっか、そうなんだよね・・・)
(2人も、私が思っているのと同じぐらい「3人の時間」を大切に思ってくれてるんだ・・・)
(それに今頃気づくなんて、私、馬鹿だよね・・・)
(うん・・・ずっと3人一緒だよ。2人が私を「邪魔だ」って言わない限りね)
−もっとも、そんな時なんてまず来ないだろうけれど。
「ところでさあ、沢木」
突然、和真がニヤニヤしながら言う。
「さっき教室出て行った時・・・何考えてたんだ?」
「えっ・・・な、何も考えてない、よ・・・」
「そうか??その割には随分と顔を赤くしてたみたいだけど」
「・・・し、知らない!」
(やだ・・・私、顔に出てた!?)
あらぬ事を考えてしまった事実を必死に否定する沢木だが、椿の次の一言でダメを押された。
「私、上手かったでしょ?」
「おまえにしては上出来だったな。沢木、絶対違う事考えてたぞ」
沢木の顔が、みるみるうちに熟れたトマトのようになっていく。
「・・・う〜っ・・・・・」
「3人でしたいんだったら、素直にそう言えよな?」
「・・・2人とも、地獄見れっ!!」
「ちょっと、それあたしのセリフ・・・」
「こりゃヤバイな。本気で怒らせちまったか?」
「・・・逃げるわよ、コーサカ!」
「バカバカバカ!2人とも、絶対許さないんだから!!」
沢木は真っ赤になって2人を追いかけ回す。
その顔には、つい先程まであった「遠慮・引け目」といったものは、微塵も感じられなかった・・・。
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